名古屋高等裁判所 平成7年(ラ)243号 決定 1996年2月26日
主文
本件抗告を棄却する。
理由
一 本件抗告の趣旨は、「一 原審判をいずれも取り消す。二 相手方を亡水野佐平次(平成4年9月8日死亡、本籍名古屋市○○×丁目×番地の×、最後の住所名古屋市○○×丁目×番地)の遺言執行者から解任する。」との審判を求めるというものであり、抗告の理由は、別紙「抗告の理由」記載のとおりである。
二 そこで検討するに、当裁判所も、抗告人の遺言執行者解任申立ては理由がないから却下すべきものであると判断するが、その理由は、原審判の理由説示のとおりであるから、これを引用する。
抗告人は、相手方が、遺言執行者として、相続人である抗告人に対し、財産目録を調整してこれを交付し、その事務の処理状況について報告するとの基本的な義務を果たしていないにもかかわらず、その解任を認めなかった原審の判断は誤りである旨の主張をするが、原審認定の事情の下においては抗告人主張の事実だけでは遺言執行者の解任事由には未だ当たらないとした原審の判断は相当であり、これに何ら違法の点はない。
三 よって、原審判は相当であって、本件抗告は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 渡辺剛男 裁判官 菅英昇 筏津順子)
抗告の理由
一 遺言執行者より名古屋家庭裁判所に提出された「遺産目録」(申立人に提出されたものではない)は、遺産の全部を記載していない。
○○株式会社の株式(少なくとも、6,352株ある)その他有価証券について、一切記載がない。
その点について、申立人が遺言執行者に対して尋ねても、一切応答がない。
退職金、退職慰労金についても、少なくとも合計1億4500万円あると判明しているのに、全部記載していない。
明白な記載漏れ及び虚偽の記載があるので、申立人が遺言執行者に対して正確な「財産目録」の提出(相続税申告の控えの提出でよい)を求めても、拒絶されるのみである。
遺言執行者は、財産目録を調整してこれを相続人に交付する義務がある(民法1011条1項)にもかかわらず、申立人の要求を完全に無視している。
二 遺言執行者は、相続人に対して、その事務の処理の状況について報告する義務がある(民法1012条2項、645条)にもかかわらず、申立人の要求を完全に無視し、何らの報告もしていない。
公正証書遺言の存在すら、遺言執行者は、相続人の申立人に、一切明らかにしていない。
三 水野勉が遺言執行者に就職したか否かについて、原審判は「明確ではない」とするが、その根拠は全く不明である。もし、その点が疑問ならば、まず、水野勉に尋ねるべきである。そうすれば、水野勉が遺言執行者に就職したことが、すぐに判明する。しかるに、原審判は申立から審判まで、一年半もの間、その点に関する確認を一切していない。
そもそも、水野勉自身が自らを遺言執行者と称し、「遺言執行者として退職金、退職慰労金についての受領権限があった」と主張している。
また、遺言執行者より名古屋家庭裁判所に提出された「遺産目録」には現金34,983,927円が記載されているが、これだけの大金が現金のままあったとは到底考えられない。預金等の払出しが遺言執行者の名においてなされたものである。原審判は、その点に関する確認も一切していない。
四 申立人が遺言執行者に求めているものは、民法1011条1項に定める財産目録の調整と民法1012条2項、645条に定める事務の処理状況の報告である。いずれも、遺言執行者の基本的な任務である。
遺言執行者がいるために、相続人は相続財産の処分権限を喪失する(民法1013条)。申立人がいかなる遺留分減殺請求をするか否かにかかわらず、相続人である申立人は遺言執行者には、民法1011条1項に定める財産目録の調整と民法1012条2項、645条に定める事務の処理状況の報告を求めることができる。
民法1011条1項に定める財産目録の調整と民法1012条2項、645条に定める事務の処理状況の報告を求めることが、何故、「遺言の執行と関係ないことを遺言執行者に求める」との原審判の判断になるのか、到底理解できない。